〒803-0814 北九州市小倉北区大手町11-4 北九州市大手町ビル3F TEL(093)583−3434 FAX(093)583−5195
ISSN 0918-8266
〒803-0814 北九州市小倉北区大手町11-4 北九州市大手町ビル3F TEL(093)583−3434 FAX(093)583−5195
ISSN 0918-8266
*当財団は、北九州市立男女共同参画センター・ムーブ、北九州市立東部勤労婦人センター・ レディスもじ、北九州市立西部勤労婦人センター・レディスやはたの指定管理者です。
(公財)アジア女性交流・研究フォーラムは、1990年10月に北九州市の「ふる さと創生事業」で設立された市の外郭団体です。アジア地域の女性の地位向上 と連帯・発展を目指して「まなびあう」「ふれあう」「たすけあう」をテーマに
第27期 海外通信員リポート
スミヤさんは49歳の女性です。現在、漁師である夫と 高校生、中学生の3人の子どもと暮らしています。一家 は海沿いの村で暮らしていますが、そこでは多くの住民 が漁や魚介類の販売で生計を立てています。スミヤさん は家計を助けるために働く機会を得たのですが、それも また漁業や魚に関連した仕事でした。
貧しい家庭で育ったスミヤさんは、若い時に適正なレ ベルの教育を受けることができませんでした。そのため、 結婚後に生活費の足しにしようと仕事を探した時も、あ まり実入りの良くない仕事しか見つかりませんでした。 夫は何日も漁に出て戻らないため、3人の子どもの世話 を一人でしなければならないスミヤさんは常に時間に追 われ、多忙な日々を送っていました。また世帯所得が十 分でないため、あらゆることを自分でこなして支出を抑 える必要もありました。
2010年までスミヤさんは近所の子どもたちにおやつを 販売し、家計を助けていました。しかし同時に、家族の ために少しでも所得を増やしたいという思いから、より 良い働き口を求めて精力的に近隣の情報収集に励んでい ました。スミヤさんの住まいは海辺の漁村にあり、近く には漁師が獲った魚を売るせり市場もあります。そのせ り市場でサバヒー(英名:ミルクフィッシュ)という魚 をさばく仕事の求人情報を入手したスミヤさんは、早速 応募しました。その仕事に就くには、まず海洋水産省が 無償で実施している5日間の研修を受ける必要がありま した。研修には50名が参加しましたが、その過程で審査 が行われ、合格した志願者だけがせり市場で働く機会を 与えられることになっていました。
この5日間の研修中に訓練を受けるのは、①サバヒー の骨を取り除く、②サバヒーを主原料とした長期保存可 能なスナックに加工する、という作業です。この経験を 通じて、スミヤさんは目からうろこが落ちる思いがしま した。多角的な観点から物事を捉えることで、世帯所得 を増やす方法は沢山あるのだと気付かされたのです。ス ミヤさんは無事に審査に合格して研修を終了し、せり市 場でサバヒーをさばく職業に就きました。せり市場での 仕事は毎日午前10時から午後2時までで、およそ100,000 ルピア(約1,000円)の収入になります。せり市場での仕 事を終えると、スミヤさんは帰宅して近所の子どもたち におやつを販売する仕事の準備をします。自らの所得を
倍増させるために、これまでの仕事も続けているのです。 午後5時までおやつを販売した後は、夕食の準備にとり かかります。午後6時を過ぎると、漁に出る夫のために 食事や飲み物、衣服などの支度をします。その後、夫が 漁から戻るのは翌朝の11時頃になります。
2010年にせり市場での研修を終えて就職し、収入が増 加したことで、生活が劇的に変化したとスミヤさんは言 います。それまでは家計が厳しく、子どもたちにきちん と教育を受けさせることができるのか分からない状態 だったそうです。そのような中、世帯所得を増やすチャ ンスをつかんだことで、子どもたち皆を学校に通わせる ことができ、スミヤさんはとても嬉しく思っています。 こうして、スミヤさんは自分の力で生活を変えようと 決意し、実行に移しました。このようにエンパワーメン トを可能にした背景には、本人の意思に加え、差し迫っ た状況という外的プレッシャーの存在がありました。ス ミヤさんがエンパワーメントの機会を得られたのは、ひ とつには無償の研修という政府からの支援のおかげであ り、もうひとつは夫からのサポートのおかげでもあります。 スミヤさんの事例が示すように、女性のエンパワーメ ントはさまざまな形で起こり得ます。彼女はより良い生 活を手に入れようと意を決し、そのチャンスをつかみま した。政府からの支援というチャンスが彼女の決意を後 押ししたとも言えるでしょう。勿論、女性たち自身のエ ンパワーメントを切望する気持ちが最も重要であること は言うまでもありません。しかし同時に、その意欲を支 え実現への足掛かりをつ
くるためにも、さまざま な場面において政府によ る積極的なサポートが必 要とされているのです。 エンパワーメントは、何 も複雑で難しいものであ る必要はありません。ス ミヤさんの事例の様に、 身近にいる女性たちの暮 らし向きや要求を良く理 解し、それに応じたプロ グラムなどを提供するこ とが肝要なのです。
内なる力を引き出すエンパワーメント
―スミヤさんの挑戦―
アストリ・ヒダイティ
(インドネシア)セベラスマレット大学でコミュニケーション学 を専攻。現在アイルランガ大学でマスコミ学の 修士課程に在籍している。以前は官庁で広報を 担当していたが、出産を機に退職。今は育児を しながらフリーライターの仕事をしている。夫 はジャーナリストで、家事をよく手伝ってくれ る。
Pro ile
1975年の「国際女性年」並びに「国連女性の十年」 の目標が「平等、開発、平和」であったように、女 性と平和は長年の課題です。2000年に国連安保理に おいて、全会一致で採択された安保理決議第1325号 (以下「1325」)は、紛争解決及び平和構築に女性を 積極的に参画させることを国際機関、各国に求めた 画期的な決議です。参画は国会などの政策決定への 参加も含みます。それ以降、紛争解決・平和構築の 場での性暴力の禁止など7つの安保理決議が採択さ れています。
1995年の第4回世界女性会議で採択された北京行 動綱領はジェンダー平等達成のための行動指針とし ての聖典といわれています。「1325」は、行動綱領の 主要成果の一つであるジェンダー主流化の視点を紛 争解決・平和構築の分野で盛り込んだ決議です。
「1325」に基づいた事務総長報告により、各国がデ ンマーク(2005年)を皮切りに、国別行動計画(NAP) の策定を始めました。
2017年現在、世界で国連加盟国193カ国中72カ国 (37.3%)がNAPを策定しており、アジア太平洋地域 はESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)加盟 国53カ国中12カ国(22.6% 2010年フィリピン、2011 年ネパール、2012年オーストラリア、2013年キルギ スタン、2014年韓国、インドネシア、2015年アフガ ニスタン、日本、ニュージーランド、2016年タジキ スタン、東チモール、2017年ソロモン諸島)が策定 しました。
NAP策定国の特徴は、紛争国にODAを出している G7や北欧をはじめとする先進国とアフリカ、アジ アなどで紛争・内戦を経験した国々だということです。 「1325」関連で法律を策定した国は米国1カ国です。 紛争予防、紛争解決、平和構築への女性の参画推進 において米国が世界のリーダーになるために、民主 党主導で2017年9月に成立しました。
日本のNAPは、市民社会との12回に及ぶ共同作業、 北九州市を含め全国5か所での意見交換会を経て策定 されました。最終的に(官邸主導で)、内容がやや変 わりましたが、策定プロセスは画期的であり、内容的 にも災害からの復興をカバーするなど充実しています。
「1325」策定15周年の2015年、UN Women はグロー バル調査を実施しました。その結果、女性に言及し た平和合意は増えたものの、平和交渉への女性の参 加は9%、PKOの女性割合は3%、しかも女性は低 い地位であることなどが分かりました。和平交渉団 に参加している女性割合が高いと交渉が成立する割 合も高いという研究結果もあります。
2016年7月にUN Womenアジア地域事務所が、日 本政府の支援により開催した「1325」NAPに関する シンポジウムには策定国が中心となった参加となり、 私は市民社会を巻き込んだモニタリングの必要性に ついて発言しましたが、明らかに国内紛争を抱えて いる国の関係者が、わが国には紛争がないため、 NAPを策定する必要がないと明言していることに驚 きました。
課題の一つとして、紛争下に止まらず、PKOです ら性暴力を行っていますが、加害者の処罰がほとん どなされていないことがあげられます。被害者は女 性、男性、LGBT、子どももいます。性暴力を防ぐ ために、国連や各国の軍隊では研修をしており、あ る程度の成果が上がっています。例えば、日本の自 衛隊でも全員が研修に参加することで隊内でのセク ハラが大幅に減っています。性暴力を減らすために、 部隊でのロールプレイなどの研修に加えて学校教育 やメディアの役割が大きいこと、加えて、加害者の 処罰も必要です。国連事務総長も性暴力にはzero tolerance(不寛容)を主張しています。加害者の処 罰について明確に言及した「1325」NAPが少ないの は、国際的な合意が不十分だからではないかと思わ れます。
いま、
女性
たちは
紛争解決および平和構築への
女性の貢献のために
十文字中学高等学校校長十文字学園女子大学名誉教授
橋本 ヒロ子
Pro ile
十文字中学校・高等学校校長,十文字学園女子大学名誉教授、 国連女性の地位委員会日本代表(2011 ~ 2017)
JICAジェンダー懇談会委員、清瀬市男女平等苦情処理委員、 日本教育情報学会監事など
主な著書:『男女共同参画推進条例のつくり方』(ぎょうせい 2001年)、『21世紀の女性政策と男女共同参画社会基本法 改訂版』、(ぎょうせい2001年)『ユニバーサルサービスのデ ザイン』(有斐閣2004年)、『アジアにおけるジェンダー平等 ―政策と政治参画』(東北大学出版会2012年)
SDGsのゴール5で掲げられている、ジェンダーの 平等や女性の女児のエンパワーメントが実現された 社会とはどのようなものなのでしょうか。女性に対 する暴力がなく、女性の権利が尊重される社会であ ることはもちろんですが、それだけではSDGsゴール 5が実現されたとは言えません。世界的に、健康や 教育の面での男女格差は徐々に狭まっているものの、 政治・経済面でのジェンダーギャップは依然として 広がったままです。世界経済フォーラムのグローバ ルジェンダーギャップレポートによると、現在のペー スで進むと政治・経済面でのジェンダー平等を実現 するには200年以上かかると予想されています。この ように、SDGsゴール5達成に向けて残された課題は 多岐にわたります。
女性に対する質の高い教育や就業支援は経済構造 改革・産業化に向けた原動力となり、社会安定化の 前提条件にもなります。女性のエンパワーメントは、 社会全体のエンパワーメントであると言っても過言 ではありません。しかし、どんなに女性の社会進出 が進んでも家事や育児などの仕事は女性の役割だと いう風潮は根強く残っています。女性は平均して男 性より1~3時間多く家事の時間を費やし、2倍か ら10倍もの時間を育児、介護、看護に費やしています。 その分、労働市場に参加する時間は男性に比べて少 なく、男女間の賃金格差や、女性の非正規労働の拡 大が進む原因にもなっています。無償労働の負担は ジェンダー平等や女性と女児のエンパワーメントを 妨げ、SDGs達成を阻害する大きな問題なのです。
無償労働の再分配は先進国に限った問題ではあり ません。私がUNDP(国連開発計画)の事務所長とし て勤務していたチャドでは農村地帯の女性にマルチ・ ファンクショナル・プラットフォームという農作物加 工装置や井戸水くみ上げ装置などを備えた作業機械 を提供しました。農村女性は水くみや調理などの家 事労働に加え、農作業や子供や老人の世話なども担 います。マルチ・ファンクショナル・プラットフォー ムは女性の労働負担を大幅に改善してくれると同時
に、収入確保の機会も提供してくれる画期的なツー ルです。この機械で加工したシアバターを販売して 得た収入は機械のメンテナンスやコミュニティーの ためにも活用されており、女性のエンパワーメントが 社会全体を活性化させることを体現しています。こ のように、無償労働の負担を軽減することで女性が 持つ最大の可能性を発揮することができます。
先日開催された国際女性会議WAW!では、無償労 働の再分配についての討論が行われました。会議で は3R(Recognize(認識する), Reduce(負担を減ら す), Redistribute(再分配する))を家庭や社会に浸 透させることの重要性が強調されました。女性に家 事や育児などの無償労働負担が大きくのしかかって いることを認識する。無償労働の負担を減らす政策 に取り組む。そして、無償労働の再分配を促進し、 伝統的なジェンダーロールに捉われない社会をつく る。ジェンダー平等な社会をつくるためには私たち 一人一人がこの三つを実行する必要があります。 2016年のアメリカ大統領選でヒラリー・クリントン 氏が共和党のドナルド・トランプ氏に敗れた後、彼 女は「ガラスの天井を破ることができなかった」と 言いました。女性が会社や社会の中でリーダーシッ プを取るにはいまだに分厚いガラスの天井が残って います。平成28年度の内閣府の世論調査で、「夫は外 で働き,妻は家庭を守るべきである」という考え方 についてどう考えるか聞いたところ,「賛成」とする 者の割合が40.6%でした。ガラスの天井を壊すには、 このようなステレオタイプを打ち破り、無意識な男 女差別に対抗しなければいけません。
2016年のアフリカ開発会議(TICAD)で採択され たナイロビ宣言では、分野横断的な課題として女性の エンパワーメントが掲げられました。無償労働の再分 配を進め、女性が男性と同様に経済活動を行うように なれば、アフリカ経済に10兆円規模の収入増加が期待 できます。ジェンダー平等は女性だけの問題ではなく 世界全体の問題です。皆さんも、身近なところから SDGsゴール5達成に向けてアクションを取りませんか。
持続可能な開発目標(SDGs)とジェンダー
(第3回)
国連開発計画(UNDP)駐日代表
近藤 哲生
米国ジョーンズ国際大学(UNDP開発アカデミー)開発学修 士号取得。1981年外務省入省。在フランス大使館、在ザイー ル大使館、日本政府国連代表部等を経て、2001年UNDPへ出 向。 2005年外務省を退職し、UNDP東ティモール人道支援調 整・資金担当上級顧問、UNDPコソボ事務所常駐副代表、 UNDPチャド事務所長等を歴任。2014年1月より現職。
誌上セミナー
1975年の「国際女性年」並びに「国連女性の十年」 の目標が「平等、開発、平和」であったように、女 性と平和は長年の課題です。2000年に国連安保理に おいて、全会一致で採択された安保理決議第1325号 (以下「1325」)は、紛争解決及び平和構築に女性を 積極的に参画させることを国際機関、各国に求めた 画期的な決議です。参画は国会などの政策決定への 参加も含みます。それ以降、紛争解決・平和構築の 場での性暴力の禁止など7つの安保理決議が採択さ れています。
1995年の第4回世界女性会議で採択された北京行 動綱領はジェンダー平等達成のための行動指針とし ての聖典といわれています。「1325」は、行動綱領の 主要成果の一つであるジェンダー主流化の視点を紛 争解決・平和構築の分野で盛り込んだ決議です。
「1325」に基づいた事務総長報告により、各国がデ ンマーク(2005年)を皮切りに、国別行動計画(NAP) の策定を始めました。
2017年現在、世界で国連加盟国193カ国中72カ国 (37.3%)がNAPを策定しており、アジア太平洋地域 はESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)加盟 国53カ国中12カ国(22.6% 2010年フィリピン、2011 年ネパール、2012年オーストラリア、2013年キルギ スタン、2014年韓国、インドネシア、2015年アフガ ニスタン、日本、ニュージーランド、2016年タジキ スタン、東チモール、2017年ソロモン諸島)が策定 しました。
NAP策定国の特徴は、紛争国にODAを出している G7や北欧をはじめとする先進国とアフリカ、アジ アなどで紛争・内戦を経験した国々だということです。 「1325」関連で法律を策定した国は米国1カ国です。 紛争予防、紛争解決、平和構築への女性の参画推進 において米国が世界のリーダーになるために、民主 党主導で2017年9月に成立しました。
日本のNAPは、市民社会との12回に及ぶ共同作業、 北九州市を含め全国5か所での意見交換会を経て策定 されました。最終的に(官邸主導で)、内容がやや変 わりましたが、策定プロセスは画期的であり、内容的 にも災害からの復興をカバーするなど充実しています。
「1325」策定15周年の2015年、UN Women はグロー バル調査を実施しました。その結果、女性に言及し た平和合意は増えたものの、平和交渉への女性の参 加は9%、PKOの女性割合は3%、しかも女性は低 い地位であることなどが分かりました。和平交渉団 に参加している女性割合が高いと交渉が成立する割 合も高いという研究結果もあります。
2016年7月にUN Womenアジア地域事務所が、日 本政府の支援により開催した「1325」NAPに関する シンポジウムには策定国が中心となった参加となり、 私は市民社会を巻き込んだモニタリングの必要性に ついて発言しましたが、明らかに国内紛争を抱えて いる国の関係者が、わが国には紛争がないため、 NAPを策定する必要がないと明言していることに驚 きました。
課題の一つとして、紛争下に止まらず、PKOです ら性暴力を行っていますが、加害者の処罰がほとん どなされていないことがあげられます。被害者は女 性、男性、LGBT、子どももいます。性暴力を防ぐ ために、国連や各国の軍隊では研修をしており、あ る程度の成果が上がっています。例えば、日本の自 衛隊でも全員が研修に参加することで隊内でのセク ハラが大幅に減っています。性暴力を減らすために、 部隊でのロールプレイなどの研修に加えて学校教育 やメディアの役割が大きいこと、加えて、加害者の 処罰も必要です。国連事務総長も性暴力にはzero tolerance(不寛容)を主張しています。加害者の処 罰について明確に言及した「1325」NAPが少ないの は、国際的な合意が不十分だからではないかと思わ れます。
いま、
女性
たちは
紛争解決および平和構築への
女性の貢献のために
十文字中学高等学校校長十文字学園女子大学名誉教授
橋本 ヒロ子
Pro ile
十文字中学校・高等学校校長,十文字学園女子大学名誉教授、 国連女性の地位委員会日本代表(2011 ~ 2017)
JICAジェンダー懇談会委員、清瀬市男女平等苦情処理委員、 日本教育情報学会監事など
主な著書:『男女共同参画推進条例のつくり方』(ぎょうせい 2001年)、『21世紀の女性政策と男女共同参画社会基本法 改訂版』、(ぎょうせい2001年)『ユニバーサルサービスのデ ザイン』(有斐閣2004年)、『アジアにおけるジェンダー平等 ―政策と政治参画』(東北大学出版会2012年)
SDGsのゴール5で掲げられている、ジェンダーの 平等や女性の女児のエンパワーメントが実現された 社会とはどのようなものなのでしょうか。女性に対 する暴力がなく、女性の権利が尊重される社会であ ることはもちろんですが、それだけではSDGsゴール 5が実現されたとは言えません。世界的に、健康や 教育の面での男女格差は徐々に狭まっているものの、 政治・経済面でのジェンダーギャップは依然として 広がったままです。世界経済フォーラムのグローバ ルジェンダーギャップレポートによると、現在のペー スで進むと政治・経済面でのジェンダー平等を実現 するには200年以上かかると予想されています。この ように、SDGsゴール5達成に向けて残された課題は 多岐にわたります。
女性に対する質の高い教育や就業支援は経済構造 改革・産業化に向けた原動力となり、社会安定化の 前提条件にもなります。女性のエンパワーメントは、 社会全体のエンパワーメントであると言っても過言 ではありません。しかし、どんなに女性の社会進出 が進んでも家事や育児などの仕事は女性の役割だと いう風潮は根強く残っています。女性は平均して男 性より1~3時間多く家事の時間を費やし、2倍か ら10倍もの時間を育児、介護、看護に費やしています。 その分、労働市場に参加する時間は男性に比べて少 なく、男女間の賃金格差や、女性の非正規労働の拡 大が進む原因にもなっています。無償労働の負担は ジェンダー平等や女性と女児のエンパワーメントを 妨げ、SDGs達成を阻害する大きな問題なのです。
無償労働の再分配は先進国に限った問題ではあり ません。私がUNDP(国連開発計画)の事務所長とし て勤務していたチャドでは農村地帯の女性にマルチ・ ファンクショナル・プラットフォームという農作物加 工装置や井戸水くみ上げ装置などを備えた作業機械 を提供しました。農村女性は水くみや調理などの家 事労働に加え、農作業や子供や老人の世話なども担 います。マルチ・ファンクショナル・プラットフォー ムは女性の労働負担を大幅に改善してくれると同時
に、収入確保の機会も提供してくれる画期的なツー ルです。この機械で加工したシアバターを販売して 得た収入は機械のメンテナンスやコミュニティーの ためにも活用されており、女性のエンパワーメントが 社会全体を活性化させることを体現しています。こ のように、無償労働の負担を軽減することで女性が 持つ最大の可能性を発揮することができます。
先日開催された国際女性会議WAW!では、無償労 働の再分配についての討論が行われました。会議で は3R(Recognize(認識する), Reduce(負担を減ら す), Redistribute(再分配する))を家庭や社会に浸 透させることの重要性が強調されました。女性に家 事や育児などの無償労働負担が大きくのしかかって いることを認識する。無償労働の負担を減らす政策 に取り組む。そして、無償労働の再分配を促進し、 伝統的なジェンダーロールに捉われない社会をつく る。ジェンダー平等な社会をつくるためには私たち 一人一人がこの三つを実行する必要があります。 2016年のアメリカ大統領選でヒラリー・クリントン 氏が共和党のドナルド・トランプ氏に敗れた後、彼 女は「ガラスの天井を破ることができなかった」と 言いました。女性が会社や社会の中でリーダーシッ プを取るにはいまだに分厚いガラスの天井が残って います。平成28年度の内閣府の世論調査で、「夫は外 で働き,妻は家庭を守るべきである」という考え方 についてどう考えるか聞いたところ,「賛成」とする 者の割合が40.6%でした。ガラスの天井を壊すには、 このようなステレオタイプを打ち破り、無意識な男 女差別に対抗しなければいけません。
2016年のアフリカ開発会議(TICAD)で採択され たナイロビ宣言では、分野横断的な課題として女性の エンパワーメントが掲げられました。無償労働の再分 配を進め、女性が男性と同様に経済活動を行うように なれば、アフリカ経済に10兆円規模の収入増加が期待 できます。ジェンダー平等は女性だけの問題ではなく 世界全体の問題です。皆さんも、身近なところから SDGsゴール5達成に向けてアクションを取りませんか。
持続可能な開発目標(SDGs)とジェンダー
(第3回)
国連開発計画(UNDP)駐日代表
近藤 哲生
米国ジョーンズ国際大学(UNDP開発アカデミー)開発学修 士号取得。1981年外務省入省。在フランス大使館、在ザイー ル大使館、日本政府国連代表部等を経て、2001年UNDPへ出 向。 2005年外務省を退職し、UNDP東ティモール人道支援調 整・資金担当上級顧問、UNDPコソボ事務所常駐副代表、 UNDPチャド事務所長等を歴任。2014年1月より現職。
誌上セミナー
アジア女性会議―北九州
第
28
回
日 時 2017年11月25日(土)13:00-16:00場 所 北九州市立男女共同参画センター・ムーブ5階 大セミナールーム
基調講演
安
あ里
さ と和
わ晃
こ う氏
(京都大学大学院文学研究科准教授)
[高齢社会の概要]
従来の日本は男性を中心とした 労働市場で構成され、経済の担い 手は男性、育児家事の担い手は女 性であるという、ある種の性的役
割分業で成功してきました。ここでは均質性が成功の源 泉であり、日本式社会の成功の図式であると言えます。 ところが人口減少社会に入り、男性だけでは豊かな社会 を作ることができなくなったため、男性だけでなく女性、 障害者、若者、外国出身者も含めたさまざまな人が活躍 できる社会のあり方を模索することが、今世紀の重要か つ不可避な課題となってきたと思います。介護も同じよ うに多様な人々で支える必要があります。
[日本の介護の概要]
従来の日本の介護は、家族やコミュニティーの内部で 行ういわゆる伝統的介護で、特に女性や嫁に依存する体 制でしたが、介護の社会化が進み社会保険制度が責任を 持つ体制となりました。
日本では、社会が介護に責任を持つべきという認識の もと、介護福祉士という極めてレベルの高い人材育成を 行う制度が誕生しました。2008年には、EPA(経済連携 協定)で海外人材の受け入れを開始しました。介護福祉 士の育成期間は、他国と比べかなり長く、海外人材の育 成を考えていなかったので、受け入れ当初は難航しまし た。しかし、日本語教育と国家試験対策を重視し、一人 200 ~ 250万円くらいの支援が行われました。その結果、 外国出身者の介護福祉士の国家試験の合格率も現在では 5割くらいになり、日本人の合格率である6割から7割 に近づいています。これは人材育成の重要性を示してい ます。
充実した人材育成支援も、膨大な費用が必要となるこ とから、社会コストとして批判する声もあります。とこ ろが考えてみると、日本人が生まれて看護師になるまで に1,000万円以上を必要とします。しかし日本人に対する
教育費用をコストとは言いません。ただ外国人の場合、 例えば本日のパネリストのミアさんが看護師資格を取得 するまでの費用は、フィリピンの両親や政府が負担して います。日本が負担するのはわずかな日本語教育だけで す。それにもかかわらず、これを社会コストと批判する のは適切とは言えないでしょう。出身地の違いで社会コ ストと批判するよりも、むしろ介護に多様な人材が参加 することを肯定的に捉え、より良い介護現場を作ってい く必要があると思います。
介護は製造業のように企業を海外移転して運営すると いう方法が取れません。介護の担い手を、被介護者の生 活の拠点で確保し、質の良い豊かな暮らしが続けられる ようにする必要があります。ところが、介護職における 給与は介護保険制度の報酬に規定されるので、人材不足 でも給料が上がるとは限りません。人口減少社会でます ます人材確保が困難になる中で、介護者を確保すること は簡単ではありません。海外も含めて多くの選択肢の中 から就労の募集を行ってもいいでしょう。広く可能性を 探るということになります。
台湾と日本の介護の違う点は、日本は介護保険への依 存度が大きく、一方で台湾は外国人労働者を導入すると いう市場、それから伝統規範にもとづく家族、コミュニ ティー、さらには介護サービス法のもと、社会の力を総 動員するという点です。東アジアは伝統的に家族主義で、 家族ケアの意識が強いのですが、20代から40代の女性の 就労率は日本より高い国がほとんどです。その背景の1 つに、外国人家事労働者の雇用があります。台湾ではイ ンドネシア、フィリピン、ベトナムなどから22万人の家 事や介護を行う人々が導入されています。
私たちはジェンダーを含め、年齢や障害の有無、出身 地にかかわらず、多様な人々が活躍できる社会を目指し、 多様な発想に基づいたアイディアやイノベーションを起 こし、社会をつくっていかなければなりません。介護の 多様性をきっかけに、多様性が尊重される社会を作って いくことが一つの実験として始まったのではないかと思 います。
▲
パネルディスカッション
<パネリスト>・安里 和晃氏(京都大学大学院文学研究科准教授)
・李 玉春氏
((台湾)國立陽明大學衛生福利研究所教授)
・伊藤 妙氏(社会福祉法人青山里会介護部門部長)
・オプラス・ミア・レスリン氏
(特別養護老人ホーム第2渓山荘ぽっぽ介護福祉士 (フィリピン出身))
<コーディネーター>
・堀内 光子(KFAW理事長)
パネリスト発表1
李 玉春氏
((台湾)國立陽明大學衛生福利研究所 教授)
台湾の高齢者人口の割合は、2060年には65歳以上が全人 口の38%を占めると見込まれるため、介護を要しない高齢 者の健康寿命をどう伸ばすかを中心に政策を立てています。 台湾では今は蔡英文政権となりましたが、介護保険制 度については前馬英九政権の長期介護制度を引き続き進 め、政府の税金を補助金として利用することで介護サー ビスを提供をしています。
台湾でも直面する課題は介護人材不足です。現在12万 人の介護職を育成中ですが、定着率は40%に過ぎず、外 国人労働者に対する依存度は非常に高い状況です。介護 職の定着率を上げることが最も重要な課題ですが、台湾 で外国人人材を採用している理由の一つにはコストが安 いことが挙げられます。また長期介護サービス制度を知 らない人もいて、その場合家族は介護で力尽き、解決策 として外国人を採用するという状況です。実際には外国 人は高齢者のケアだけでなく、家での子守りなど介護以 外の仕事もさせられるというケースもあります。
台湾では80歳以上の高齢者で24時間介護が必要な人、あ るいは85歳以上で軽度の介護が必要な人、さらに重度障害 者に、外国人介護労働者を雇用できる資格が与えられます。 財源確保や人材の確保が課題ですが、長期にわたり外国人 に頼るというわけにはいかないので、介護人材の賃金を向 上させたいというのが私の思いです。日本に倣い、外国人 人材に対する言語の教育や、台湾の介護従事者と同じ待遇 をとるといった取り組みを行っていかなければなりません。
パネリスト発表2
伊藤 妙氏
(社会福祉法人青山里会 介護部門部長)
青山里会は三重県の四日市に事業所があります。職員総 数は1,080人で、そのうち介護職員が619人です。43名のブラ ジル出身者の他に、フィリピン、ペルー、ボリビア、インド ネシア、タイ、ベトナムから66名の外国人が在籍しています。 施設近くの彼らが住む団地は、リトルブラジルといっ た雰囲気で外国人が多く住み、毎日職場まで送迎バスで 往復するため日本人との交流も全くなく、日本語で会話 ができない方も多くいました。
仕事においても、日本人的な感覚では、一人一人の職 務をはっきり決めず、さまざまな仕事をこなすことが当 然のことですが、外国人の場合は、一人一人の職務がはっ きりとしており、自分の仕事以外には関わらない、といっ た労働観や文化の違いがあるため、それが原因で当初は 日本人と外国人のいざこざが絶えませんでした。
そこで彼らに、就業時間中に日本語習得の機会を設け ると同時に、一緒にお寺参りに行ったり、鍋を食べたり して日本の文化に触れてもらいました。そうしたコミュ ニケーションの中で、日本人の私も自分の意思をきちん と示す、ということができるようになりました。
外国人職員の採用は、「近隣地域に外国人が多く、その地 域の外国人たちも働いてくれたら、先々彼らに介護が必要 になった時も困らないよね」ということがきっかけで始まり ました。地域で共に暮らしている方々なので、わが事とし てこれから先の介護を一緒に考えていこうと思っています。
パネリスト発表3
オプラス・ミア・レスリン氏
(特別養護老人ホーム第2渓山荘ぽっぽ介護福祉士(フィリピン出身))
私は17歳の時に交換留学生として来日、2010年に再来 日し、短期大学を卒業後介護福祉士候補者として、日本・ フィリピン経済連携協定の5期生に申し込みました。 フィリピン人の寿命は日本人より15年短く、介護は家族 で支えあいます。家族の一人が必ず患者のそばについてい るため、介護は一般的な仕事ではありません。心のケアを 考えるうえで病気の時、誰かに頼ることは大事なことです が、日本は家族のつながりが弱くなっているように感じます。 介護の仕事は生活の介助だけではなく、利用者のより 良い生活支援に向けてケアプランも作成します。ケアプ ランは高齢者の生活を維持するために非常に重要で、利 用者に対する観察力や知識、判断力に加え、病気や生活 背景の詳細も知らなくてはなりません。一人一人に合っ た最も素晴らしい生活支援を作り、実践することこそが 介護の醍醐味です。
一方で、有料老人ホームで起こった介護職員による殺 人事件や、介護の心労が原因の心中などのニュースが多 くみられます。介護士の不足は周知のことで、私も夜勤 の16時間労働は本当に疲れます。しかし家族が24時間、 介護するのはもっと大変です。日本人は自分で問題を抱 え込むことが多く、他人にサポートを求めることが少な いから、このような事件が起こってしまうのだと思います。 高齢者は、老後は十分な介護を受け、敬われる当然の 権利があり、最後の1分1秒、息を引き取るまで人間と しての価値を持たねばならないと私は考えます。そのた めにも介護士としての心と技術を生かし、一人一人の命 を豊かにしていきたいと考えています。
アジア女性会議―北九州
第
回
日 時 2017年11月25日(土)13:00-16:00場 所 北九州市立男女共同参画センター・ムーブ5階 大セミナールーム
基調講演
安
あ里
さ と和
わ晃
こ う氏
(京都大学大学院文学研究科准教授)
[高齢社会の概要]
従来の日本は男性を中心とした 労働市場で構成され、経済の担い 手は男性、育児家事の担い手は女 性であるという、ある種の性的役
割分業で成功してきました。ここでは均質性が成功の源 泉であり、日本式社会の成功の図式であると言えます。 ところが人口減少社会に入り、男性だけでは豊かな社会 を作ることができなくなったため、男性だけでなく女性、 障害者、若者、外国出身者も含めたさまざまな人が活躍 できる社会のあり方を模索することが、今世紀の重要か つ不可避な課題となってきたと思います。介護も同じよ うに多様な人々で支える必要があります。
[日本の介護の概要]
従来の日本の介護は、家族やコミュニティーの内部で 行ういわゆる伝統的介護で、特に女性や嫁に依存する体 制でしたが、介護の社会化が進み社会保険制度が責任を 持つ体制となりました。
日本では、社会が介護に責任を持つべきという認識の もと、介護福祉士という極めてレベルの高い人材育成を 行う制度が誕生しました。2008年には、EPA(経済連携 協定)で海外人材の受け入れを開始しました。介護福祉 士の育成期間は、他国と比べかなり長く、海外人材の育 成を考えていなかったので、受け入れ当初は難航しまし た。しかし、日本語教育と国家試験対策を重視し、一人 200 ~ 250万円くらいの支援が行われました。その結果、 外国出身者の介護福祉士の国家試験の合格率も現在では 5割くらいになり、日本人の合格率である6割から7割 に近づいています。これは人材育成の重要性を示してい ます。
充実した人材育成支援も、膨大な費用が必要となるこ とから、社会コストとして批判する声もあります。とこ ろが考えてみると、日本人が生まれて看護師になるまで に1,000万円以上を必要とします。しかし日本人に対する
教育費用をコストとは言いません。ただ外国人の場合、 例えば本日のパネリストのミアさんが看護師資格を取得 するまでの費用は、フィリピンの両親や政府が負担して います。日本が負担するのはわずかな日本語教育だけで す。それにもかかわらず、これを社会コストと批判する のは適切とは言えないでしょう。出身地の違いで社会コ ストと批判するよりも、むしろ介護に多様な人材が参加 することを肯定的に捉え、より良い介護現場を作ってい く必要があると思います。
介護は製造業のように企業を海外移転して運営すると いう方法が取れません。介護の担い手を、被介護者の生 活の拠点で確保し、質の良い豊かな暮らしが続けられる ようにする必要があります。ところが、介護職における 給与は介護保険制度の報酬に規定されるので、人材不足 でも給料が上がるとは限りません。人口減少社会でます ます人材確保が困難になる中で、介護者を確保すること は簡単ではありません。海外も含めて多くの選択肢の中 から就労の募集を行ってもいいでしょう。広く可能性を 探るということになります。
台湾と日本の介護の違う点は、日本は介護保険への依 存度が大きく、一方で台湾は外国人労働者を導入すると いう市場、それから伝統規範にもとづく家族、コミュニ ティー、さらには介護サービス法のもと、社会の力を総 動員するという点です。東アジアは伝統的に家族主義で、 家族ケアの意識が強いのですが、20代から40代の女性の 就労率は日本より高い国がほとんどです。その背景の1 つに、外国人家事労働者の雇用があります。台湾ではイ ンドネシア、フィリピン、ベトナムなどから22万人の家 事や介護を行う人々が導入されています。
私たちはジェンダーを含め、年齢や障害の有無、出身 地にかかわらず、多様な人々が活躍できる社会を目指し、 多様な発想に基づいたアイディアやイノベーションを起 こし、社会をつくっていかなければなりません。介護の 多様性をきっかけに、多様性が尊重される社会を作って いくことが一つの実験として始まったのではないかと思 います。
▲
パネルディスカッション
<パネリスト>・安里 和晃氏(京都大学大学院文学研究科准教授)
・李 玉春氏
((台湾)國立陽明大學衛生福利研究所教授)
・伊藤 妙氏(社会福祉法人青山里会介護部門部長)
・オプラス・ミア・レスリン氏
(特別養護老人ホーム第2渓山荘ぽっぽ介護福祉士 (フィリピン出身))
<コーディネーター>
・堀内 光子(KFAW理事長)
パネリスト発表1
李 玉春氏
((台湾)國立陽明大學衛生福利研究所 教授)
台湾の高齢者人口の割合は、2060年には65歳以上が全人 口の38%を占めると見込まれるため、介護を要しない高齢 者の健康寿命をどう伸ばすかを中心に政策を立てています。 台湾では今は蔡英文政権となりましたが、介護保険制 度については前馬英九政権の長期介護制度を引き続き進 め、政府の税金を補助金として利用することで介護サー ビスを提供をしています。
台湾でも直面する課題は介護人材不足です。現在12万 人の介護職を育成中ですが、定着率は40%に過ぎず、外 国人労働者に対する依存度は非常に高い状況です。介護 職の定着率を上げることが最も重要な課題ですが、台湾 で外国人人材を採用している理由の一つにはコストが安 いことが挙げられます。また長期介護サービス制度を知 らない人もいて、その場合家族は介護で力尽き、解決策 として外国人を採用するという状況です。実際には外国 人は高齢者のケアだけでなく、家での子守りなど介護以 外の仕事もさせられるというケースもあります。
台湾では80歳以上の高齢者で24時間介護が必要な人、あ るいは85歳以上で軽度の介護が必要な人、さらに重度障害 者に、外国人介護労働者を雇用できる資格が与えられます。 財源確保や人材の確保が課題ですが、長期にわたり外国人 に頼るというわけにはいかないので、介護人材の賃金を向 上させたいというのが私の思いです。日本に倣い、外国人 人材に対する言語の教育や、台湾の介護従事者と同じ待遇 をとるといった取り組みを行っていかなければなりません。
パネリスト発表2
伊藤 妙氏
(社会福祉法人青山里会 介護部門部長)
青山里会は三重県の四日市に事業所があります。職員総 数は1,080人で、そのうち介護職員が619人です。43名のブラ ジル出身者の他に、フィリピン、ペルー、ボリビア、インド ネシア、タイ、ベトナムから66名の外国人が在籍しています。 施設近くの彼らが住む団地は、リトルブラジルといっ た雰囲気で外国人が多く住み、毎日職場まで送迎バスで 往復するため日本人との交流も全くなく、日本語で会話 ができない方も多くいました。
仕事においても、日本人的な感覚では、一人一人の職 務をはっきり決めず、さまざまな仕事をこなすことが当 然のことですが、外国人の場合は、一人一人の職務がはっ きりとしており、自分の仕事以外には関わらない、といっ た労働観や文化の違いがあるため、それが原因で当初は 日本人と外国人のいざこざが絶えませんでした。
そこで彼らに、就業時間中に日本語習得の機会を設け ると同時に、一緒にお寺参りに行ったり、鍋を食べたり して日本の文化に触れてもらいました。そうしたコミュ ニケーションの中で、日本人の私も自分の意思をきちん と示す、ということができるようになりました。
外国人職員の採用は、「近隣地域に外国人が多く、その地 域の外国人たちも働いてくれたら、先々彼らに介護が必要 になった時も困らないよね」ということがきっかけで始まり ました。地域で共に暮らしている方々なので、わが事とし てこれから先の介護を一緒に考えていこうと思っています。
パネリスト発表3
オプラス・ミア・レスリン氏
(特別養護老人ホーム第2渓山荘ぽっぽ介護福祉士(フィリピン出身))
私は17歳の時に交換留学生として来日、2010年に再来 日し、短期大学を卒業後介護福祉士候補者として、日本・ フィリピン経済連携協定の5期生に申し込みました。 フィリピン人の寿命は日本人より15年短く、介護は家族 で支えあいます。家族の一人が必ず患者のそばについてい るため、介護は一般的な仕事ではありません。心のケアを 考えるうえで病気の時、誰かに頼ることは大事なことです が、日本は家族のつながりが弱くなっているように感じます。 介護の仕事は生活の介助だけではなく、利用者のより 良い生活支援に向けてケアプランも作成します。ケアプ ランは高齢者の生活を維持するために非常に重要で、利 用者に対する観察力や知識、判断力に加え、病気や生活 背景の詳細も知らなくてはなりません。一人一人に合っ た最も素晴らしい生活支援を作り、実践することこそが 介護の醍醐味です。
一方で、有料老人ホームで起こった介護職員による殺 人事件や、介護の心労が原因の心中などのニュースが多 くみられます。介護士の不足は周知のことで、私も夜勤 の16時間労働は本当に疲れます。しかし家族が24時間、 介護するのはもっと大変です。日本人は自分で問題を抱 え込むことが多く、他人にサポートを求めることが少な いから、このような事件が起こってしまうのだと思います。 高齢者は、老後は十分な介護を受け、敬われる当然の 権利があり、最後の1分1秒、息を引き取るまで人間と しての価値を持たねばならないと私は考えます。そのた めにも介護士としての心と技術を生かし、一人一人の命 を豊かにしていきたいと考えています。
第27期 海外通信員リポート
イスラーム世界の結婚最前線
それでも息子がほしい
ネパールの男児選好の現在
ネパールでは、児童婚は1963年から違法となっていま すが、実際にはいまだに廃止されていません。その主な 原因となっているのが、教育機会の欠如、児童労働、社 会的圧力、花嫁の持参金の慣習、家庭内での女児に対す る差別などです。ユニセフ(国連児童基金)によると、 ネパールにおける児童婚の割合はアジアで3番目に高く、 女子の40%以上が18歳未満で、10%が15歳未満で結婚し ています。にもかかわらずネパールの法律では最低結婚 年齢は男女とも20歳と定められています。
ネパール政府はこの慣習を撲滅するために一定の取り 組みを行ってはいるものの、長らく約束されてきた国家 計画の達成は先延ばしになっています。2014年、イギリス・ ロンドンで開催された国際会議「ガール・サミット」に おいて、ネパールの女性・子供・社会福祉大臣は、2020 年までに児童婚根絶に向けて努力することを誓約しまし た。そして、ネパール政府は2016年3月にカトマンズに おいて国内の「ガール・サミット」を独自に開催し、児 童婚根絶の目標達成期限を2030年までに延長しました。 これは国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成期限と 同じ年です。
この問題に詳しい専門家は、政府による児童婚撲滅に 向けた取り組みは十分ではないと言います。児童婚の防 止や、児童婚させられた子どもが受ける被害の軽減のた めに、政府が効果的な施策を実施した形跡がほとんど見 られないということです。
児童婚が常態化しているネパールの農村地域ですが、 その事情は少し複雑です。たとえば、幼い娘を結婚させ る親の多くは児童婚が違法だという事実を知らず、また 特に娘に教育を受けさせることに価値を認めていません。 こうした背景から、女児は幼くして学校をやめさせられ、 結婚を強いられるのです。女児たちは、自分たちの結婚 が違法だと認識していたとしても、警察などの当局に訴 えることができません。また、児童婚の問題に取り組ん でいるNGOのサポートを得て警察に届け出ようとして も、警察は受理しようとしないのです。
2015年4月に起きた大地震では多くの人 が命を奪われ、約400万人もの人たちが家 を失いましたが、これにより児童婚を取り 巻く状況が一段と悪化しました。多くの家 庭が絶望感から、娘を嫁がせることを望ん だのです。この件についての正式な調査は 行われていませんが、多くの被災した家庭 は同じような体験をしています。
児童婚はさまざまな負の結果をもたらし ます。具体的には、教育の機会が奪われ、
若年妊娠が原因で死亡をはじめとする深刻な健康被害を 引き起こし、身体的・性的暴力などの家庭内暴力を受け、 見捨てられてしまう、というような事態に陥るのです。 世界銀行と国際女性研究センター(ICRW)による報告は、 児童婚によって途上国に2030年までに何兆ドルもの損害 がもたらされる可能性を指摘しています。また、幼い少 女が結婚後に妊娠した場合、生殖器官が未成熟なために 子宮脱や産科フィスチュラ(産科瘻ろう孔こう)になりやすい傾 向があります。さらに、児童婚をした女子は家庭内暴力 や精神的トラウマに苦しむリスクが高まります。
これに対し、児童婚を根絶することは、女子とその子 どもたちが学業を修めるのにプラスの影響を与え、女性 がきちんと大人になってからより少ない人数の子どもを 持つことを促し、女性の収入の増加と家庭の幸福をもた らします。たとえば、ネパールでは出生率を下げること で得られる利益は、約10億ドルにのぼるとされています。
前向きな変化は起きている
女性・子供・社会福祉省当局者の話では、結婚できる法 定年齢は男女ともに20歳以上と定められていますが、この 法律にいくつかの改正があったそうです。現行法に違反す ると、懲役3年と約95ドルの罰金に処せられます。しかし、 政府による児童婚の撲滅を目指した政策としては、この罰 則では実効性に乏しいと、専門家は指摘しています。また、 国連人口基金は、教育こそが児童婚を減らす最善の方法 だと考えています。しかし、ネパールでは依然として女 子生徒の中退率の高さが課題として残っています。女子 が学校から離れると結婚することが多く、その割合は学 校に通う女子の10倍にもなります。
とはいえ、事態は良い方向へと動き出しています。2001 年に実施されたネパール保健人口調査では、15 ~ 19歳の 少女の40%が既婚となっていますが、後に行われた同様の 調査において、2006年は32.2%、2011年は28.8%にまで減少 しています。これは好ましい傾向です。そして時間はかか るけれど変化は起きるのだと、私たちに確信させてくれます。
児童婚の根絶を
ヨヤーナ・ポッカレル
(ネパール)ACEスクールのヨガインストラクター・ファシ リテータ。大学院で経営やマーケティングを専 攻し、経営学修士を取得。現在さまざまなクラ ブや組織でヨガトレーニングの指導的立場にあ り、小中学校における生徒向けのヨガのカリ キュラム開発をしている。
Pro ile
日 時 2017年10月22日(日)14:00 ~ 17:00
場 所 北九州市大手町ビル(ムーブ)5階 小セミナールーム
講 師 竹村和朗(東京外国語大学アジア・アフリカ言語研究所)
嶺崎寛子(愛知教育大学准教授) 山﨑和美(横浜市立大学准教授) 大形里美(九州国際大学教授)
参加者 44名
日 時 2017年12月15日(金)14:00 ~ 16:00
場 所 北九州市大手町ビル(ムーブ)5階 小セミナールーム
講 師 佐野麻由子(福岡県立大学准教授)
サンギータ・バンダリ(ネパール NGO Sunrise Orphanage代表)
参加者 29名
このセミナーは、「イスラーム世界の結婚最前線」と題 し、エジプト、イラン、インドネシアのイスラーム教諸 国の多様な結婚の実態を紹介しました。
エジプトでは、婚約の披露宴、新居や家財道具など結婚 道具の準備、サダークと呼ばれるイスラーム法に従った花 婿から花嫁への支払い金、結婚を公にする披露宴の開催と、 経済的な負担が増加しています。夫の離婚権はとても強く、 妻には離婚権がありません。夫が3回離婚を宣言すると、 離婚が成立し、もはや夫は離婚を取り消すことができません。 イランでも、イスラーム法に従った伝統的な結婚契約 を締結し、婚約、結婚式(披露宴)、結婚式後の儀式(結 婚翌日の祝宴)を行います。結婚の申し出は、多くの場 合最初に女性側の両親に持ち込まれ、両親が良縁である と判断した場合、はじめて正式なものになるそうです。
ネパールでは、都市部、農村部、社会的階層の上下に関 わらず、広く行われている女児の中絶が社会問題になって います。このセミナーでは2015年~ 2017年に実施した調査 結果をもとに、その実態と社会的背景が紹介されました。 ネパールでは、1985年以降、女性100に対する男性の割合 が105から107と高く、女児を中絶しているのではと疑われて います。ネパールでも、2002年に中絶が合法化され、以後顕 著になっているという指摘もあります。2016年10月から翌年 3月に実施した調査では、65.8%の人が男女同数の子どもを 理想としている、息子が必要と回答した人は47%、20.2%の 人が性別判定を行った経験を持ち、性別判定後に中絶した
伝統的な結婚とは別に、婚前同棲や若い男女の行きずり 婚が増加しているほか、後払いのマフル(結納金)を払 えず、投獄される男性もいるそうです。
インドネシアにおける多様な結婚の形態として、一夫 多妻婚が紹介されました。一夫多妻婚については、イン ドネシアの国内でも、ジャカルタの人々とロンボックの 人々で、反対する人、賛成する人の割合がかなり異なり、 地域差があります。また、法律により、異教徒間の婚姻 はできず、異教徒のカップルが結婚するには、どちらか が改宗しなければなりません。
今後、日本社会はイスラーム教徒の人々が、身近に暮ら す社会になる可能性があります。このセミナーが、イスラー ム教徒の人々の暮らしを理解する一助になればと、締めく くられました。
人は16.6%でした。分 析結果では、都市と 農村を比べると、都 市部の方が男児を選 好している割合が高 く、相対的に貧しい人、
低学歴者、低カーストの人々が男児を選好しているようです。 サンギータさんから、ネパールでは「娘は不運ととも に生を受ける」「男児の誕生は天国行きを約束する」といっ たことわざが紹介されたほか、「外では息子じゃなくても 良いと言うが、心の中は別」、「息子が欲しくて、離婚し て新たな妻を持つ人がいる」、「教育がある人でも男児が できやすいとされる妊娠時期を見計らう」といった補足 がなされました。また、男児を望む理由として、父系社 会であるため、家やカーストの存続には男性が必要、相 続の優先順位は息子に与えられている、息子の嫁は両親 の面倒を見てくれるが、結婚したら娘は他家の一員になっ てしまう、火葬の際に火をつけることができるのは男性、 娘が嫁ぐ際のダウリー(女性から男性への持参金)が重 荷になっている、といったことが考えられるそうです。
2017年度 KFAWアジア研究者ネットワークセミナー活動報告
当財団では、昨年度に引き続き、自由ケ丘高校でキャ リア形成プログラムを使用した出前講座を行いました。 講義やワークショップを通じて、働くことの意義、現在 の社会の課題そして自分の意見を表現することの大切さ を高校生に伝えました。後日、生徒たちは市内の19の事 業所を訪問し社員と意見交換を行い、さらに見学した事 業所についてプレゼンテーションを行いました。高校生 の皆さんにとって、自分の将来について考える良い機会 になったのではないでしょうか。
自由ヶ丘高校
キャリア形成プログラム
日 時 2017年9月30日(土)8:55 ~ 11:45
場 所 自由ヶ丘高校体育館
講 師 松本幸一(九州国際大学准教授) 山脇直祐(九州共立大学等講師)